学習意欲が高まる!素朴な質問・疑問

2021年06月27日

インプット講義を受講していただいている方からの「質問カード」で、これはという質問を取り上げて、ご質問があった事項とその回答を記載する「学習意欲が高まる!素朴な質問・疑問」の12回目です。

第12回は、労働一般常識の「労働組合法第7条(不当労働行為)」に関する質問です。

【質問1】

労働一般テキスト176ページの不当労働行為2の(b)(下記回答1にある労働組合法第7条第1号ロ)についてですが、ここで説明している内容というのはクローズドショップ制のことなのでしょうか。


【回答1】

不当労働行為の禁止は、憲法で保障された団結権、団体交渉その他の団体行動をする権利の実効性を確保するために、労働組合法に定められている制度です。労働組合法第7条では、使用者の労働者に対する次のような行為を不当労働行為として禁止しています。


〇労働組合法第7条〔不当労働行為として禁止される行為〕

(1)組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱いの禁止(第1号)

イ労働者が、

・労働組合の組合員であること

・労働組合に加入しようとしたこと

・労働組合を結成しようとしたこと

・労働組合の正当な行為をしたこと

を理由に、労働者を解雇したり、その他の不利益な取扱いをすること。

ロ 労働者が労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを雇用条件とすること(いわゆる黄犬契約)。

ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。

 

(2)正当な理由のない団体交渉の拒否の禁止(第2号)

 使用者が、雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを、正当な理由なく拒むこと。

(なお、使用者が形式的に団体交渉に応じても、実質的に誠実な交渉を行わないこと(不誠実団交)も含まれる。)

 

(3)労働組合の運営等に対する支配介入及び経費援助の禁止(第3号)

イ 労働者が労働組合を結成し、又は運営することを支配し、又はこれに介入すること。

ロ 労働組合の運営のための経費の支払いにつき経理上の援助を与えること。

 

(4)労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱いの禁止(第4号)

労働者が労働委員会に対し、不当労働行為の申立てをし、若しくは中央労働委員会に対し再審査の申立てをしたこと、又は労働委員会がこれらの申立てに関し調査若しくは審問をし、若しくは労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言したことを理由として労働者を解雇し、その他の不利益な取扱いをすること。


以上のように、労働組合法第7条は、不当労働行為を列挙して、これを使用者に禁止する規定です。

憲法第28条は、勤労者の団結権、団体交渉その他の団体行動をする権利を保障していますが、労働組合法第7条は労働三権を具体的に保障し、使用者に対して一定の行為を行うことを禁止して、労働組合活動の自由に対する使用者からの侵害を防止し、労働組合の自主性を確保しようとするものです。


労働組合法第7条第1号ロでは、労働者が労働組合に加入しないことや労働組合から脱退することを雇用条件とすること(黄犬契約)を禁じていますが、ただし書にあるとおり、一定の場合には、使用者は、「その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約」、すなわち、ユニオンショップ協定又はクローズドショップ協定(以下「ユニオンショップ協定等」という。)を労働組合と締結することは妨げない旨を規定しています。


黄犬契約が労働組合への不加入、労働組合からの脱退を意図するものであるのに対し、ユニオンショップ協定等は、逆に、組合への加入、組合から脱退しないことを促進し、組合の組織化強化に資しようとするものです。(以上、コンメンタールより文章抜粋の上、加工)


したがって、ここで説明している内容というのはクローズドショップ制は当然のことながら、ユニオンショップ制も含まれます。


ショップ制



【質問2】

ユニオンショップ協定等は、特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する労働組合がある場合にのみ締結できるものと考えてよろしいのでしょうか。



【解答2】

その通りです。


ユニオンショップ協定等は、「特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する」労働組合と締結する場合に「のみ」認められます。


たとえば、一企業内に、A、B及びCの3事業場があり、甲組合がA及びBの2事業場の従業員の過半数を代表し、乙組合がC事業場の従業員の過半数を代表する場合であれば、C事業場において適法にユニオンショップ協定等を締結し得るのは、乙組合に限ると解せざるをえないとされています。


したがって、この場合において、甲組合が過半数代表であるA及びB事業場と合わせてC事業場の従業員に対してユニオンショップ協定等を締結したとしたら、労働組合法第7条は第1号ロただし書の条件に該当する場合に限り不当労働行為とはならない旨定められているわけですから、C事業場の従業員に対するユニオンショップ協定等については、ただし書の要件に適合しない労働組合が締結したユニオンショップ協定等となり、不当労働行為を内容とするものとして、また、公序良俗に反するものとして、無効であると解せられています。(以上、コンメンタールより文章抜粋の上、加工)





2021年06月20日

インプット講義を受講していただいている方からの「質問カード」で、これはという質問を取り上げて、ご質問があった事項とその回答を記載する「学習意欲が高まる!素朴な質問・疑問」の11回目です。

第11回は、労働全般に関わる「用語」に関する質問です。

【質問】
「雇用形態」と「就業形態」の違いがよく分かりません。

【回答】

雇用形態とは、使用者と労働者が締結する雇用契約の種別であり、平たく言うと、どういう雇われ方をしているかということです。大きく2つに分けると正規労働者と非正規労働者に分かれますが、厚生労働省の「さまざまな雇用形態」をみると、派遣労働者、契約社員(有期労働契約)、 パートタイム労働者、短時間正社員、業務委託(請負)契約を結んで働いている人、家内労働者、 自営型テレワーカーが挙げられています。

一方、就業形態とは、雇用だけに限らず就業の形態を表します。よく、「就業形態の多様化」という表現が見受けられますが、様々な人が様々な価値観で働いていることを指しています。

[参考]・令和元年就業形態の多様化実態調査「1」「2」「3」「4」「5」「6

ただ、この2つの用語の実際の使われ方に厳密な違いがあるわけではありませんので、どちらも同じような意味合いでとらえていただいても、試験対策や実務的にも差し支えないのではないかと思われます。




2021年06月13日

インプット講義を受講していただいている方からの「質問カード」で、これはという質問を取り上げて、ご質問があった事項とその回答を記載する「学習意欲が高まる!素朴な質問・疑問」の10回目です。(先週はお休みしてしまいました。)

第10回は、労働基準法の「36協定」に関する質問です。

【質問1】

テキスト109ページの(3)について個人単位の上限が定められているとのことですが、個人単位という表現がよくわかりません。限度時間や限度時間の特例というのは個人単位ではないのでしょうか?


労基法テキスト109ページ(3)


【回答1】

テキスト109ページの(3)については、個人単位の上限が定められていますが、この(3)の制限時間は、36協定で会社が限度時間内の時間数で設定するものではなく、絶対に守られなければならない絶対的制限時間です。

(3)の1ページ前から(108ページ~109ページ)記載されている(2)については、事業場単位に限度時間内であれば36協定で定めることが可能な時間を意味しています。

労基法テキスト108ページ(2)



事業場単位といっても、限度時間(45時間や360時間)や限度時間の特例(100時間未満や720時間、特別条項といいます。)という時間の限度は、当然、個人単位となります。


(2)については、事業場単位ですから、たとえば、東京にあるA事業場では「1箇月の限度時間が40時間、1年間の限度時間が300時間」、「特別条項として、1箇月の限度時間が80時間、1年間の限度時間が700時間」としていたとしても、大阪にあるB事業場では、「1箇月の限度時間が35時間、1年間の限度時間が250時間」、「特別条項として、1箇月の限度時間が70時間、1年間の限度時間が600時間」などと、違う設定にすることが可能な訳です。


そして、A事業場で働く労働者Xさんの労働時間は、A事業場で定めた範囲内に収まるよう、当然、個人単位でカウントされますし、B事業場で働く労働者Yさんの労働時間は、B事業場で定めた範囲内に収まるよう、当然、個人単位でカウントされることになります。


そして、(3)について個人単位の上限が定められているというのは、36協定がいかなる設定の事業場においても、必ず守られていなければならない制限時間という意味で、どの事業場に所属していようとも「個人単位(ごと)」に制限されている時間になります。


もし、(3)(法36条6項)が守られない場合には、1人につき、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という重い罰則が適用されます。(テキスト213ページ)



【質問2】

(3)の②について100時間未満という制限がありますが、限度時間の特例においても100時間未満という制限があります。内容が重複していて、(3)の②において規定されているのであれば、限度時間の特例で規定する必要はないように思えるのですが、何か理由はあるのでしょうか。


【回答2】

『「限度時間の特例における100時間未満という制限」は、限度時間を何時間にするか、100時間未満の中で事業場ごとに決めてください』という意味ですが、『「(3)の100時間未満という制限」は、どんな場合であっても、労働者が一人でも超えたら処罰を伴う対象となる』という意味ですから、意味合いが違います。


また、109ページの下の方に<転勤の場合>とあります。



労基法テキスト109ページ転勤の場合



もし、(3)の条文の「100時間未満」がなければ、先ほどの例で、A事業場で働く労働者Xさんが月半ばの15日でB事業場に転勤した場合、(2)の事業場単位の36協定の限度時間の設定は通算されないことになりますから、月前半にA事業場の特別条項の1箇月の限度時間80時間の時間外労働をしたうえで、月後半にB事業場の特別条項の1箇月の限度時間70時間の時間外労働をしてもよくなってしまいます。


このケースでは、A事業場が東京、B事業場が大阪と離れていますが、悪知恵の働く使用者がいた場合、東京のA事業場で月前半を働かせ、埼玉にあるC事業場で月後半を働かせれば、(2)の事業場単位の36協定の限度時間の設定だけでは、法に抵触することなく月100時間超の労働をさせることが可能となってしまいます。


このように法の抜け道ができることになってしまいますので、そういう意味でも、(3)の個人単位の「1箇月100時間未満」と「複数月平均80時間以下」は重要な意味合いがあるわけです。




2021年05月30日

インプット講義を受講していただいている方からの「質問カード」で、これはという質問を取り上げて、ご質問があった事項とその回答を記載する「学習意欲が高まる!素朴な質問・疑問」の9回目です。

第9回は、健康保険法の「定時決定」に関する質問です。


【質問内容】

健康保険の定時決定について、給与の締め日が末日で支払い日が翌月10日の場合に、たとえば、4月末日締め日で5月10日に支払う給与は、給与計算期間が4月1日から4月30日までになりますが、それは4月分の給与なのでしょうか。
それとも5月分の給与なのでしょうか。
見分け方がよく分かりません。


【回答】

ここは、受験生がよく混乱してしまうところです。
また、試験でも出題される可能性もあります。

結論から申し上げますと、健康保険の定時決定は、4月、5月、6月に「実際に支払われた給与の額」で決まります。
4月出退勤分、5月出退勤分、6月出退勤分ではありません。
すなわち、給与締め日は関係ありません。

したがって、給与の締め日が末日で支払い日が翌月10日である、4月30日締め日で5月10日に支払われる給与は、給与計算期間が4月1日から4月30日までとなりますが、この分は5月10日に給与が支払われていますので5月給与となります。

たとえば、3月1日~末日までの勤務の分を、4月10日に支払うという会社の場合には、お給料日が4月10日ですから、この給料は4月給与とされ、定時決定の3ヶ月の中の最初の月となります。

このように、賃金の額を計算した日(締め日)や期間(出退勤)がどうであれ、4月中に実際に支払われた給与が4月給与、5月中に実際に支払われた給与が5月給与、6月中に実際に支払われた給与が6月給与となり、この3ヶ月分で定時決定が行われます。






2021年05月23日

インプット講義を受講していただいている方からの「質問カード」で、これはという質問を取り上げて、ご質問があった事項とその回答を記載する「学習意欲が高まる!素朴な質問・疑問」の8回目です。

第8回は、労働一般常識の「男女雇用機会均等法9条」に関する質問です。


【質問内容】

男女雇用機会均等法の9条(プレミアムテキスト「労働に関する一般常識」の98ページ)2項には、「事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。」とあります。
そして、3項では、「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法65条に定められた産前休業を請求し、又は産前産後休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」となっています。
どうして婚姻を2項に、妊娠・出産を3項に分けているのでしょうか。
婚姻については「その他不利益な取り扱いをしてはならない」という規定は当てはまらないのでしょうか。

【回答】

男女雇用機会均等法の9条2項・3項に関するご質問ですが、なかなか良いところを突いた質問ですね。
これには、歴史的背景が絡みますので、少々長くなりますが、ご説明させていただきます。

まず、男女平等関連の法制度の全体像からみていきましょう。

男女平等政策に関する法律は「仕事における平等な取り扱い・公正な取り扱いを定めたもの」と「家族的責任を法的に保障するもの」の2つに大別できます。

<仕事における平等公正な取り扱いを定めた法律(職場)>
・男女雇用機会均等法
・労働基準法
・労働契約法
・パート・有期法
・労働者派遣法
・女性活躍推進法  等

<家族的責任の法的保障に関する法律(家庭)>
・育児・介護休業法
・次世代育成支援対策推進法  等

さて、「職場での平等公正な取り扱いを定めた法律」のひとつに位置付けされる男女雇用機会均等法ですが、正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」であり、男女雇用機会均等法は通称です。

ここでは、事業主が募集・採用や配置・昇進・福利厚生、定年・退職・解雇にあたり、性別を理由にした差別を禁止することなどを定めていますが、看護婦が看護師に、スチュワーデスが客室乗務員に名称変更されたのもこの法律によるものです。

男女雇用機会均等法が制定された経緯は、1979年に「女性差別撤廃条約」が国連総会で採択され、個人や企業による差別を含め、女性に対するすべての差別を禁止する立法その他の措置をとることなどを締約国に義務づけられたことによります。
そこで、その当時、日本は国連の「女性差別撤廃条約」の批准にむけ、国内法の整備が必要になりました。
その結果、制定された法律が「男女雇用機会均等法」(1985年(昭和60年)成立、1986年(昭和61年)6月施行)でした。

ちなみに、「女性差別撤廃条約」には、男女平等を旨としながら、女性にのみ妊娠・出産に関する母性保護を適用することは差別に当たらないことを明示している一方、家族的責任に関する保護について男女両方が対象と解されており、同一価値労働同一賃金に関する権利も規定されています。
この条約の第11条に「雇用の分野における差別の撤廃」が規定され、2項(a)に「妊娠又は母性休暇を理由とする解雇及び婚姻をしているかいないかに基づく差別的解雇を制裁を課して禁止すること。」という文言があり、ここが男女雇用機会均等法9条2項・3項の根拠となる箇所です。

それでは、男女雇用機会均等法9条みてみましょう。

<男女雇用機会均等法9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)>
① 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
② 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
③ 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法65条に定められた産前休業を請求し、又は産前産後休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
④ 妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

ご質問の主旨としては、(1)9条2項、3項が別々の項になっている理由と、(2)3項は「妊娠、出産、産前産後休業等」については「解雇その他不利益な取扱い」を禁止しているのに対し、2項では、「婚姻」に関して「解雇」のみを禁止しているのは、何か理由があるのか、という2点ですが、順を追ってご説明いたします。

まず、(1)の9条2項、3項が別々の項立てになっている理由ですが、2項の「婚姻」と3項の「妊娠・出産」は実は意味的に大きな違いがあります。
というのも、「婚姻」については、男性、女性共に当てはまることですが、「妊娠・出産」は女性だけに当てはまるものだからです。
この違いから、9条1項では、「婚姻・妊娠・出産を退職理由として予定する定めをしてはならない」と「婚姻・妊娠・出産」を並列にしているにもかかわらず、「婚姻」が2項、「妊娠・出産」が3項と使い分けているひとつの理由になっています。

ただ、3項の「女性労働者が妊娠したこと、出産したこと」の「女性労働者」という表現は、「妊娠・出産は「女性」だけのことですから本来、「労働者」という表現でも、別段、通じるわけですが、わかりやすく「女性労働者」という表現にしているだけのことになります。
ところが、2項の「女性労働者が婚姻」という表現は、あえて「男性労働者は含まれない」ことを意図して作られた条文となります。
というのも、男性労働者が婚姻して解雇されたという話は聞いたことがない(通常、考えられない。)からです。
一方、女性の場合はどうかというと、法制定の昭和の頃は「結婚退職制度」がまかり通っていて、「寿退職」が奨励(当然視)されていました。
これは、日本における性差別の極めて象徴的なものであり、これらのことを特に禁止することが国際的にも必要でした。
たとえば、女性が結婚退職する場合に退職金を上積みするいわゆる「結婚退職上積制度」が就業規則に記載されている企業もあるほどで、こういった制度は、男女同一賃金の原則を定める労働基準法4条に違反する行為となりますが、女性の婚姻については、とにかく真っ先に「解雇」又は「退職」する風潮を無くすことが、「女性差別撤廃条約」の批准上、急務とされたわけです。

したがって、2項と3項に分けた理由ですが、「婚姻」(2項)と「妊娠・出産」(3項)は対象が違ううえに、2項は「男性労働者は含まれない」が、3項は「元々女性労働者でしかありえない」ものであることから、意味の違いを明確にするため別立てとされています。
また、「女性差別撤廃条約」の文面の中には、婚姻による差別的解雇を禁止する旨、明記されており、3項に「婚姻」を入れてしまうと、他の「妊娠・出産・産前産後休業・その他厚生労働省令で定めるもの」の中に埋没してしまい、意味合いが薄れてしまったり、国連や諸外国の首脳が読み取れないと困ることになりますので、独立した2項ですっきりとした一文にしたわけです。
それに加えて、「女性の婚姻=退職」の日本の悪しき慣習を変えるためにも、独立した項立てが必要でした。

ところで、9条3項の「妊娠・出産」についても、当初は「解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」ではなく、「解雇してはならない」とされていました。
ところが、平成19年改正で「不利益取扱い」が追加され、「解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」という表現に改められ、改正の柱とされています。
なお、ここはプレミアムテキスト労働一般常識90ページの最後の5行にも記載されています。

<プレミアムテキスト労働一般常識90ページ最後の5行>
さらに、差別事案の複雑化や妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い事案などが増加していることから、平成17年12月の労働政策審議会の建議を受け、間接差別の禁止を含む性差別禁止の範囲の拡大とともに、妊娠、出産等を理由とする解雇以外の不利益取扱いを禁止するなどの見直しを行うことを内容とする男女雇用機会均等法等の改正法案を第164回通常国会に提出し、平成18年6月15日に成立した。

男女雇用機会均等法は、先にも触れたとおり、昭和61年に施行されていますが、平成になってからの大きな改正が2度ありました。

最初の大きな改正は、平成9年(1997年)に行われ、法律制定時には努力義務とされていた募集・採用、配置・昇進において、女性であることを理由とする差別的取り扱いが禁止されました。これにより、法律制定時から差別的な取り扱いが禁止されていた定年・退職を合わせ、募集・採用から定年・退職に至る雇用管理において、事業主が、女性に対して差別することが禁止されることとなりました。
また、女性のみの募集や女性のみの配置などの女性に対する優遇については、女性の職域を固定化したり、男女の職務分離をもたらしたりする等の弊害を招くことから、原則として「女性に対する差別」として新たに禁止されました。一方で、事業主が講ずるポジティブ・アクション(=男女労働者の間に事実上生じている格差を解消するための取り組み)に対し、国が相談その他の援助を行うことができる規定が新設されました。

続く2つ目の改正は、平成19年(2007年)改正となります。
項目としては、①差別禁止の範囲が拡大され、「女性差別」禁止から「性差別禁止」へ拡大し、男性も対象になったこと、②セクシュアル・ハラスメント対策の強化として、すべての事業所が講ずべき義務になり、セクハラも防止の対象拡大され、男性や同性間を含むこととなったこと、③直接的な差別だけでなく、間接差別(=一見性別が関係ないように見えるルールや取り扱いを運用した結果、どちらかの性別が不利益になってしまうこと)の禁止、④妊娠・出産を理由とする不利益取り扱いの禁止、⑤法に違反した場合の制裁規定を整備(企業名公表対象の拡大、過料創設)などが挙げられます。

このように、平成19年に施行された改正男女雇用機会均等法は、男性を基準として女性の機会や待遇をその基準に近づけていくという規制のあり方から一歩進んで、男女に等しく適用されるべきユニバーサル的な規制の在り方を示したといえます。
そこには、男性中心の雇用社会から男女が等しく支える雇用社会へという、新たな雇用社会の構築に向けた動きを読み取ることができます。

それでは、本題に戻りますが、9条2項では、「婚姻」に関して「解雇」のみを禁止しているのに対し、なぜ、3項は「妊娠、出産、産前産後休業等」については「解雇その他不利益な取扱い」を禁止しているという違いが出てきたのかについてですが、先ほど記載した平成19年改正では、妊娠・出産の際に休業することで辞めさせる(解雇)ことまではいかないものの、配置転換をして通えないほどの距離の通勤をさせたり、契約の更新を拒否するなど、昇進・昇格・賃金・異動・待遇・契約等に関して不利になる事例が多く見受けられたことが挙げられます。
それまで法での規制が「解雇」のみで、「不利益な取扱い」の禁止までされていなかったことから、事業主としては「解雇」はしないものの、「不利益取扱い」をすることで結局、会社を辞めざるをえない状況に追い込まれる女性労働者が後を絶たなかったわけです。

ただ、「婚姻」については、「会社を辞める」ということ自体の問題がとにかく大きかった(裏を返すと、不利益取扱いをすること以前に辞めてしまうことが多かった。)ことから、とにかく辞めないで仕事を続けるということに力点が置かれました。
それに、「女性差別撤廃条約」においても、「婚姻」することで「解雇」されることを明確に禁止していましたから、条約の内容を我が国での法制度の中に確実に担保する必要がありました。
そこで、女性労働者の婚姻における「解雇」の禁止を9条2項で明記したわけですが、条約では「不利益な取扱い」までは禁止項目とされていませんでしたから、平成19年改正では、2項に関してはあえて触れずにそのまま同じ表現に留められた次第です。

ただし、2013年改正で、「婚姻を理由とする差別的取扱い禁止の明示」が省令・指針で加わりましたが、法律そのものを改正することが叶わなかったことが課題とされています。
そのため、将来的には、2項は「解雇」だけでなく、「不利益な取扱い」の禁止が加わるものと考えられます。

今回のご質問のような素朴な疑問は、紐解いていくと、歴史的背景や改正の経緯が絡んでくることがあります。
勿論、「ただ単にそうなっているだけ」としか、回答できないケースもあるでしょうが、今回のご質問の回答の主旨の部分に関しては、厚生労働省雇用環境均等局雇用機会均等室の方にご尽力いただき、解釈便覧のようなもの(おそらく書庫にある古い資料ではないかと思われます。)で調べていただいていますのでより確かです。