2021年05月02日

インプット講義を受講していただいている方からの「質問カード」で、これはという質問を取り上げて、ご質問があった事項とその回答を記載する「学習意欲が高まる!素朴な質問・疑問」の5回目です。

第5回は労働基準法の判例(山梨県民信用組合事件)に関する質問です。


【質問内容】


労働基準法のテキストP196の山梨県民信用組合事件の判例3行目の「その合意に際して就業規則の変更が必要とされることを除き」とありますが、どのようなことをいっているのでしょうか。


【回答】

労働基準法のテキストP196にある山梨県民信用組合事件のおおまかな概要としては、「A信用組合は、いくつかの合併を繰り返す中で、退職金規定が変更されたが、労働者はこれに同意しないと合併が実現できないと同意書への同意を求められたためこれに応じたところ、その後退職したXらの退職金は、変更後の支給基準の適用により0円となった。」という経緯のものです。

ここでは、労働条件の変更に対する労働者の「同意」とは、どの程度の情報提供や説明がなされなければならないかが争われました。

ご質問のあった判旨の部分を抜き出しますと、次のとおりです。

<判旨>
労働契約の内容である労働条件は、労働者と使用者との個別の合意によって変更することができるものであり、このことは、就業規則に定められている労働条件を労働者の不利益に変更する場合であっても、その合意に際して就業規則の変更が必要とされることを除き、異なるものではないと解される。

まず、前提として、使用者が労働条件の変更を行おうとする場合、労働者が当該変更に同意していれば、労働条件は両者の合意に基づいて適法に変更されます。

ただし、当該合意は、労働基準法などの強行法規に違反したり、就業規則や労働協約の定めよりも労働者に不利な労働条件を定めたりするものであってはなりません。

したがって、判旨は、「労働契約の内容である労働条件は、労働者と使用者との個別の合意によって変更することができるものであり、このことは、就業規則に定められている労働条件を労働者の不利益に変更する場合であっても異なるものではない。」が、不利益変更する場合には、「就業規則の範囲内で」行う必要があるとしています。

すなわち、「その合意に際して就業規則の変更が必要とされることを除き、」というのは、個別の労働条件の不利益変更(しかも就業規則の基準を下回る不利益変更)に、ある労働者が合意したからといって、その際に就業規則を労働者の不利益に変更してはならないということになります。

そのような場合には、労働者の合意があっても不利益変更は認められないことになります。

ここは、労働契約法8条、9条、10条が該当します。
読み解いてみましょう。

【労働契約法8条】
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

→前提として、労使の合意で労働条件の変更ができる。
(ここでは、変更後の労働条件が労働者にとって、良くなるか、不利益になるかは問われていません。)

【労働契約法9条】
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、第10条の場合は、この限りでない。

→使用者は、「法10条に該当する場合を除き、」労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。
→逆に言うと、「法10条に該当すれば、不利益変更することができる」となります。

【労働契約法10条】
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

→使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合には、個別の労働契約における労働条件の変更は労使の合意がなくてもできますが、変更後の就業規則を労働者に周知させることと、次の5要件に合理性があることが求められます。
①労働者の受ける不利益の程度
②労働条件の変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況
⑤その他の就業規則の変更に係る事情

これらを簡潔にまとめると、
労働条件の変更は、労使間の合意によって、不利益にも変更できるが、労基法等の法令、労働協約、就業規則の範囲内でなければならない。

労使間の合意によらない労働条件の変更が認められる場合としては、
①就業規則又は労働協約によって労働条件を変更する場合(「労働者への周知」及び「合理性の5要件」が必要)
②使用者が労働条件を変更する権限を有することが労働契約に定められている場合
があり、それぞれ、一定の要件の下で労働条件変更の効力が認められる。
となります。




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