2021年04月11日

インプット講義を受講していただいている方からの「質問カード」で、これはという質問を取り上げて、ご質問があった事項とその回答を記載する「学習意欲が高まる!素朴な質問・疑問」の2回目です。

第2回は、「労働基準法」の「1週間単位の非定型的変形労働時間制」に関する質問です。


【質問内容】
1週間単位の非定型的変形労働時間制について、労働者に負担を強いる制度にもかかわらず、他の変形労働時間制と異なり、有効期間の定めが必要がないのにはどのような理由があるのでしょうか。
また、派遣労働者については1週間変形の条件である30人未満には含めないということでよろしいでしょうか。

【回答】
変形労働時間制とは、一定の期間を平均して、1週間の労働時間が法定労働時間を超えない場合には、特定の日又は週について、法定労働時間〔1日8時間、1週40時間(原則)〕を超えて労働させることができる制度で、次の4つの種類があります。
①1箇月単位の変形労働時間制
②フレックスタイム制
③1年単位の変形労働時間制
④1週間単位の非定型的変形労働時間制

この4つの種類の中で、「1週間単位」だけ「非定型的」という文言が使われていることに気が付かれることと思います。
この非定型的という言葉の意味は、「日ごとの業務に著しい繁閑の差が生ずることが多く、かつ、これを予測した上で就業規則その他これに準ずるものにより各日の労働時間を特定することが困難であると認められる事業」(法32条の5第1項)とあるとおり、日ごとの繁閑の波が「定型的」に定まっていないということです。
逆にいうと、フレックス以外の「1箇月単位」と「1年単位」の変形労働時間制は、繁閑の波が「定型的」で、その予測の元で変形期間を通じ、各日の所定労働時間を設定することができます。

対象となる事業は「小売業・旅館・料理店・飲食店」で、常時使用する労働者数が30人未満の事業であることとされています。
「30人未満」とは常態として30人未満の労働者を使用しているという意味であり、時として30人以上となる場合は除かれます。
また、派遣労働者については1週間変形の条件である30人未満には含めませんが、そもそも派遣労働者を派遣先において1週間単位の非定型的労働時間制の下で労働させることはできません(労働者派遣法44条2項)。
派遣労働者については、勤務日・勤務時間をあらかじめ確定させる必要があるため、急なシフトが入るような1週間単位の非定型的労働時間制は、派遣労働者には馴染まないとされているからです。

さて、本題に入ります。
1週間単位の非定型的変形労働時間制について、労働者に負担を強いる制度にもかかわらず、他の変形労働時間制と異なり、有効期間の定めが必要がないのにはどのような理由があるのかということですが、理由は3つあると思われます。

1つ目は、1週間単位の非定型的変形労働時間制は非定型的であり、あらかじめ繁閑の波が予測できないため、「いつから制度を開始」するかは必要ですが、「いつまで」という有効期間を定めることには馴染みません。
たとえば、飲食店の場合には、大人数での会食の予約が急に入ったりしますが、飲食店である以上、同じようにずーっと飲食を提供する業務を続けていく訳ですから、「いつまで」この状況が続くかというと、ずっとということになり終わりの期間は見込めません。
あえて言うなら、常態として30人以上の労働者を使用することになった場合には、人数が多くなった分、シフトや2交代制が機能できるようになりますから、飲食店の規模が大きくなったときが該当しますが、そうでなければ、廃業でもしない限り、いつまでも同じような形での就業になりますから、有効期間を定める必要性が薄く、その結果、有効期間の定めは無くてもよいとされていると考えられます。

2つ目ですが、変形労働時間制の代表格は、「1箇月単位」と「1年単位」の変形労働時間制です。
というのも、本来の変形労働時間制とは、「業務の繁閑を予測」して「計画的」に「労働時間を調整」していくことを想定しているからです。

ところが、1週間単位の非定型的変形労働時間制は、あらかじめ業務の繁閑が予測できないような事業が対象であり、忙しい日には10時間労働するかわりに、暇な日には労働時間を短くしたり休日にしたりすることにより、1週間単位で労働時間を単に調整しようとする制度です。
ただ単に多忙な業務を一時的にしのぐためだけに作られた制度であり、計画性に乏しく、本来あるべき姿の変形労働時間制とは主旨が異なりかけ離れているものとされています。

事実、命名が、本来あるべき「1週間単位の変形労働時間制」ではなく、「1週間単位の非定型的変形労働時間制」と、あえて「非定型的」という冠を施されていることからも、いっぱしの変形労働時間制として認められているのではなく、本来の変形労働時間制ではないんだけれども、かろうじて変形労働時間制の仲間入りを認めてあげようという「変形労働時間制もどき」とみなされていることがわかります。
これらのことから、変形労働時間制の運用の厳しい規定は要求されず、厳格に有効期間を定めなくてもよいとされているのではないかと思われます。

3つ目は、対象が30人未満の労働者を使用している「小売業・旅館・料理店・飲食店」であり、対象企業が絞られていて、しかも小規模ですから、有効期間を定めることまで要求されていないことが考えられます。
有効期間を定めた場合、有効期間が切れる前に労基署に書類を再度、提出しなければなりませんが、「小売業・旅館・料理店・飲食店」には零細企業が多く、このような煩雑な届出までを要求するのは酷です。
また、労基署としても、有効期間が切れているか否かということに目くじらをたてて、小規模な飲食業等をいちいち取り調べるのも困難かつ面倒で、有効期間切れをとがめても「失念していました。」と回答されるだけでしょうから、有効期間の定めがない方がありがたいはずです。

以上、3つの理由が考えられると思われます。
ただし、ここに記載した3つの理由は、コンメンタールや文献に載っているわけではありませんので、絶対的・公的なものでなく、いろいろ調べたり他の社労士に聞いてみたうえで話が上ったことを材料に推察したものととらえてください。



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